マナー

 四国のお寺や住民の方々は、お遍路さんを「修行者」として見る厳しい目も持っています。
 だから「がんばってください」と、お接待をするわけです。
 お遍路さんの格好をしてマナー違反をすることは、弘法大師の顔に泥を塗る行為です。
 絶対にしないでください。


マナー
 ・参拝時のマナー
 ・十善戒
 ・橋を渡るときには杖をつかない
 ・杖を大切に扱う
 ・お接待のマナー
 ・修行中の僧に声をかけない
 ・騒がない
 ・喧嘩をしない
 ・無断でキャンセルをしない
 ・動物にえさを与えない


法律違反
 ・無断で書き込む
 ・トイレ以外での排泄
 ・無断で持っていく
 ・落し物を勝手に使う
 ・無断で野営する
 ・ポイ捨て、不法投棄


参拝時のマナー


著作:阿波ナビ 様
2016.05



十善戒じゅうぜんかい

 四国遍路をする際の古来から続く行動規範ですが、日々の生活でも大切なことです。

一、不殺生ふせっしょう
 生きているもの、すべての命を大切にする。命あるものすべてに対して恐れることは何も存在しないと示す。

二、不偸盗ふちゅうとう
 物を盗まず、他人のものを大事に扱う。理由のないものを欲しいと思わない。

三、不邪淫ふじゃいん
 性は尊いものであり、節度をもって性を考える。異性に対する邪(よこしま)な行為にふけらない。

四、不妄語ふもうご
 うそ、偽りはいわず、真実を話すことを心がける。

五、不綺語ふきご
 虚飾のことばは話さず、飾らない本当のことばで話す。へつらわない。

六、不悪口ふあっく
 人を傷つける言葉を使わない。相手を思いやることばで話をする。口には人を傷つける斧があると言われています。

七、不両舌ふりょうぜつ
 どの人に対しても、二枚舌を使わず、温かな気持ちで話す。

八、不慳貧ふけんどん
 強欲をはり、貪ることなく、少なきを分かち合う。感謝の気持ちで過ごす。

九、不瞋恚ふしんに
 怒りをおさえ、心を落ち着けて、優しい気分で過ごす。

十、不邪見ふじゃけん
 邪な間違った考えを捨て、どの人にも平穏な気分で接する。

参考資料:四国八十八ヶ所霊場会、霊山寺パンフレット
2016.05



橋を渡るときには杖をつかない

 愛媛県の大洲市に[ 十夜ヶ橋とよがはし ]と言われている橋があります。
 大寒の日、弘法大師がこの橋の下で野宿をしましたが、寒さと空腹などのために寝付けず、一晩がまるで十夜の長さに感じられたということから十夜ヶ橋と名付けられました。
 四国では今でも弘法大師が四国を廻っていると考えられており、橋を通る時は橋の下で休憩しているかもしれない弘法大師に遠慮して杖をつかない風習となっています。
2016.05



杖を大切に扱う

 杖は弘法大師の化身です。弘法大師を跨いだり、引きずったり、投げたり、テントのポールにしたり、物干しにしたりしないでください。
 杖で「あっち」と方向を指し示すだけでも反感を買う場合があります。
2016.05



お接待のマナー

 お遍路をしていると食べ物をいただいたり、宿泊する場所を提供していただいたりすることがありますが、これは「お接待」と言われている行為で、これは単なる親切ではありません。
 自分がお遍路に廻れない代わりにお遍路さんを支え、功徳くどくをいただく行為でもあります。ですから、お接待はできるだけ断らないでください。そして、その人の分まで歩いてお参りすることになります。
 車に乗っている人が「乗っていくかい?」と声をかけることもありますが、全部歩きで廻りたいのであれば、理由を伝えて断っても構いません。

 ただ、最近はお接待を目当てに歩かれるかたが増えてきました。お金をある程度持っているのに単に節約のため、無料で泊まれる場所を廻ったり、人の善意を当てにして廻っている人たちです。そしてSNSに写真付きで「ここに無料で泊まりました」「ここでお金をもらいました」と拡散して、さらに節約で廻る人たちを集めます。
 個人でお接待をされているかたは、人によってはものを売ってでもお金を工面し、お接待をしています。人が集まれば集まるほど、その人はお金がなくなります。しかし「お遍路さんのために」と言って頑張り続けて結局潰れていきます。
 具体的にどこで誰にお接待をしてもらったなど、そのような情報が流れると、その人のところに人が集まり、個人でお接待ができる許容範囲を超えてしまいます。そこに住めなくなって引っ越す人さえいます。
 ですから、お接待の情報はインターネットに拡散させないでください。

 そして誰かが書いたブログ等を見て「ここでお接待が受けられるんだな」と、お接待目的でそこに行かないでください。お接待を当てにして行っても、いつもそこでお接待をしているとは限りません。

 関連[ お接待をする時の注意 ]
2016.05



修行中の僧に声をかけない

 お遍路をしていると修行中の僧を見かけることがありますが、「写真を撮ってもいいですか」など、話しかけないでください。
 僧とすれ違う際には、軽く会釈をしていただければと思います。
 お寺にいる僧侶も基本的に仕事中ですので、あちらから声をかけてきた場合でしたら別ですが、長々話し続けたり、無断で写真や動画を撮影したりしないでください。
2016.05



騒がない

 四国遍路では、お子さんを亡くされたかたなどが供養※のためにお遍路をされていることがあります。
 そのような方々の横ではしゃぐなどの行為は、配慮が足らない行為です。
 また、遍路宿や民宿の壁は薄く、隣の声がよく聞こえますので、夜にお酒を飲んで騒いだりすることは謹んでいただけたらと思います。
2016.05



喧嘩をしない

 遍路宿で言い争いをしている中高年を見かけますが、四国遍路では、弘法大師を信じて歩いている人。友人や家族の供養のために歩いている人。観光で歩いている人。修行で歩いている人。会社の研修で歩かされている人。みなさん様々な理由で歩いています。それを理解されておらず、みんなが同じ目的で歩いていると思い、彼らは話します。
 また、1回でも多く廻っているほうが偉いという風潮がありますが、重要なのは回数なのでしょうか。
 「私は前回は35日で廻れたんだ。あなたはここまで何日かかった? 遅いねぇ」と自慢げに話されているかたもいますが、供養のために歩いている人からしたら、35日だろうが45日だろうが、重要なことではありません。
 自慢話は自分が気持ちいいだけです。みんな違うんだということを理解していただけたらと思います。
 「実るほど頭を垂れる稲穂かな」です。
2016.05



無断でキャンセルをしない

 宿に予約を入れて準備をさせておいて、何の連絡もしないでキャンセルを繰り返す人が問題になっています。歩き遍路だと途中で予定が狂うことがあるのは私も経験しましたが、何度も繰り返すのはプランニングの問題であり、ご自身の責任です。
 どうしても予約した時間に間に合わないのであればタクシーを使うなりして、きちんと泊まるべきです。もしくはきちんとキャンセルの電話をかけて、後日キャンセル料を払うべきです。

 無断でキャンセルをして逃げるのは、嘘つきであり、人の時間と労力と信頼を奪うどろぼうです。

2016.05



動物にえさを与えない

 歩いていると犬や猫などが寄ってきてきますが、餌は与えないでください。
 あなたがその犬や猫を飼うのであれば問題ありませんが、他の地域でも勝手な餌やりにより問題が生じている事例が多数出ています。
 猫なで声を出して近寄ってこられると餌を与えたくなる気持ちは痛いほどよくわかりますが、我慢です。

 野宿の時も、残飯を「自然に帰るから大丈夫だ」と捨てる人がいますが、人が捨てたものを動物が食べ、人が持っている食べ物の味を覚えてしまうと人に近づきトラブルが生じます。四国では街に猪が現れて射殺される事件も発生しています。残飯は必ず、決められた場所に廃棄してください。

[福岡県動物愛護センター]
[和歌山県 野生動物への餌付け防止について]
[野生動物の「食」を考える]
[日光国立公園いろは坂におけるニホンザルと観光客の餌付けを巡る行動]
[野良猫に餌をあげることが良くない理由について]
2016.05


ここから下は、マナーではなく、犯罪行為となります。


無断で書き込む

 役所などが立てかけた通行止めの看板に「通れます」などとマジックで書き込みをしないでください。器物破損罪(刑法第261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金)となります。
 シールなどを貼り付けたり取り付けたりすることも同じです。
 「自分は通れたから問題ない」と、善意で書き込まれていると思いますが、その人がその時通れたとしても、次の日も通れるとは保証できないはずですし、事故が発生しても責任を一切とらないのに無責任ではないでしょうか。
 事故が発生した際にきちんと責任を取るつもりなのでしたら、記入者の氏名と住所と電話番号も記述すべきではないでしょうか。
2016.05



トイレ以外での排泄

 立ちションなど「街路または公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、または大小便をし、もしくはこれをさせた者」は、軽犯罪法違反(施設に30日未満の収容。もしくは、1000円以上1万円未満の罰金)となります。
 人がほとんどいない山奥の場合だと、人の土地に入った場合は住居等侵入罪(刑法130条前段、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)。
 土地や物を汚されたと訴えられれば、器物破損罪(刑法261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金)。
 陰部を露出することにするため、人に見られてわいせつ物頒布等の罪(刑法175条)となったケースもあります。

 私は実際に、お遍路の格好で人様の畑に排泄している中年の男性を見たことがあります。
「排泄物は自然に帰るから問題ない」と考える人もいますが、想像してみてください。自分の畑に人が入ってきて排泄していたらどう思われますか?
2016.05



無断で持っていく

 旅館やホテル、遍路宿、通夜堂などにあるものを無断で持って行かないでください。窃盗罪(刑法235条、10年以下の懲役または50万円以下の罰金)となります。
 トイレットペーパーなどの消耗品も、持って行ってはいけません。
 「雨が降ってきたので誰のものかわからないビニル傘を借りた」という場合も、窃盗です。
 無料でもらえるものなのか判断が難しいもの(パンフレットなど)は、宿のかたに確認してください。
2016.05



落し物を勝手に使う

 落し物を自分のものにしないでください。遺失物横領罪(刑法254条、1年以下の懲役または10万円以下の罰金)となります。
 お遍路の格好をした人の中には、拾ったものを「これはお大師様が私に与えてくれたもの」と言って返さない人がいますが、弘法大師は横領を推奨していません。十善戒にも背く行為です。
 道端で落し物を拾ったら1週間以内に落とした本人か警察に届け出てください。警察が見つからない場合は、宿のかたに頼んでください。お店などの施設内で拾ったら、その施設の人に速やかに渡してください。

 ちなみに、落とした人は困るでしょうが、そのままにしておくことは法律上、罪にはなりません。
2016.05



無断で野営(野宿・テント泊・キャンプ)する

 私有地に無断で野営をした場合、住居等侵入罪(刑法130条前段、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)となります。
 立ち退くように要求されても退去しなかった場合は、不退去罪(刑法130条前段、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)も成立します。

お接待時の注意
 退去の要求をうけたにもかかわらず居座っている者に対して、食事や水などを供給し、その者の居座りを助けた場合には、共犯となりますので、ご注意ください。

 また、刃の長さが6cmを超えるナイフや刃が8cmを超えるハサミ等を、業務や正当な理由以外で持ち歩いていると銃砲刀剣類所持等取締法(第22条、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)違反となります。
 自分では「キャンプで使う」ので正当な理由だと思っていても、警察ではそうは取り合ってくれない場合がありますので、ご注意ください。
2016.05



ポイ捨て、不法投棄

 歩き遍路をしていると1gでも軽くしたいのでどんどんものを捨てたくなるのですが、コンビニの袋を放置した程度でも、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金)違反となります。
 ビニル袋などを野生動物が食べ、死骸の胃の中から大量に発見されるということも日本では発生していますので、環境破壊の危惧のみではなく、動物への影響も出ています。
 コンビニのゴミ箱に捨てるか、宿でゴミを捨ててもらえないかお願いするなどして、放置しないようにしてください。
2016.05




© 2016 四国遍路友の会