タクシー会社の善根宿
 ある大学生のお遍路さんが、一番札所からずっと歩いていました。しかし計算を間違って、十一番 藤井寺から十二番 焼山寺の間の山の中で一泊することになりました。そこは、四国一の難所です。テントを広げて寝ていたら、夜中オオカミの鳴き声がテントの近くでずっと聞こえていたので、一睡もできませんでした。
 次の日、タクシー会社の車庫の二階で一泊することになりました。そこには畳も天井のお風呂も布団もあります。よく見ると、自分の東京の下宿よりも汚い部屋でしたが、昨日の夜を経験した彼には非常にありがたい寝床でした。彼は下宿を探す際に父親に「もっといいところに住ましてくれ」と文句を言ったのですが、そんな自分が恥ずかしくなりました。
 学生は次の日、お礼を言って次のお寺へ向かいました。
 タクシー会社の井上社長は、「私がお遍路さんをお世話することで、会社の従業員がお客さんに対して言葉づかいが優しくなり、事故が減っている。これはご利益だと思っている」と語ってくれました。



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