岡先生は音楽の先生です。真夏、足摺岬の近くを歩いていた彼は、次第に疲れてきました。歩みが遅くなり、まわりのみんなが彼を抜いて、ひとり遅れをとり始めたのです。ところが一時間後、彼は元気を取り戻してみんなを抜き返しました。不思議に思って訳を聞くと、こんな話をしてくれました。
岡先生は、砂浜を歩いていたとき、海水浴をしていた小学校二年生の女の子に、
「お接待させてください」
と呼び止められたそうです。子供たちは海から上がって、シートに置いてあったビスケットを取りに来ました。ところが、濡れた手でビスケットを岡先生に渡す寸前に、砂に足を取られて転んでしまったのです。岡先生は砂付きのビスケットをプレゼントされました。けれども、彼は子供に教えられたと感じたそうです。自分は学校の先生で、子供を教えることが仕事だと思っていたけれど、反対に子供から教わったと。疲れたときに優しい言葉を掛けられると、あっという間に疲れが吹き飛ぶことを教えられたのです。
優しさや思いやりの心が、立場や肩書を越えて大切なことを教えてくれる。
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