自分のいいところを探す旅
 十八歳の彼は、岡山県内の高校を卒業してすぐに歩き遍路を始めました。彼は思春期の頃から自分にはいいところがないと思いがちで、受験の面接でもうまく喋ることが出来なかったそうです。徳島県からお遍路をスタートし、二つ目の県にあたる高知県で、
 「自分に自信はないですし、このままじゃいけないと思って、こっちに来たらいろいろ変われるかと思って」
と、遍路の旅に出た理由をおずおずと語ってくれました。

 果てしない海岸線が続く高知県の遍路道、彼は足の痛みに悩まされました。それでも歩き続け、次の愛媛県では、最も過酷だと言われる山道を休むことなく登っていく逞しい姿がありました。山を越え、雨の中でも歩みを止めることなく歩きながら、
 「大分慣れてきて、余裕が出来ていろいろ考えられるようになってきた」
と話す彼の目は、以前より輝きが増しているようです。
 翌日、休憩所で休もうとした彼に、地元のおばあちゃんが食事を作ってくれました。見知らぬ人にごちそうになるのは初めての経験です。
 「お食べ」
と微笑むおばあちゃんが見守る中、彼は照れ臭そうに、けれども嬉しさに満ちた表情でおにぎりを頬張るのでした。その休憩所で、彼は他のお遍路さんたちと親しくなり、そこからしばらく彼らと共に歩きます。
 そして彼は四国遍路最後の県、香川に入ります。歩き始めて四十二日目、とうとう最後の札所、大窪寺にたどり着きました。長い旅が終わったのです。苦手だったお経も読み慣れ、彼と歩いた杖は十センチすり減っていました。
 「実際に歩きで回ることも出来ているので、無理に自分のいいところを見つけようと考えなくても、今のままで頑張っていればいいのかなと思えるようになりました」
と語り、はじけるような笑顔を見せる彼は、以前とは別人のように堂々とした自信に満ち溢れていました。

 歩くことで価値観が大きく変わる。旅に出る前に固執していた問題は、実はたいしたことではなかったと気付くかもしれない。想像していたものとは異なる答えが出たとしても、それがあなたのこれからを支えてくれることに変わりはない。




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